実際に書類送検を経験した企業の元社員や現職労働者による手記、および労働組合の報告書からは、数字や条文だけでは見えてこない凄惨な実態が浮かび上がります。
ある大手物流子会社で運行管理者を務めていた30代男性の手記には、次のような生々しい告白が綴られています。
「タイムカードを定時で打刻させた後、裏口から事務所に戻って点呼や伝票整理を続けさせるのが暗黙の了解だった。『会社を潰す気か』『嫌なら代わりはいくらでもいる』という上司の恫喝が日常茶飯事。労基署の査察が入った際も、管理職は裏帳簿を自宅に持ち帰って隠蔽工作を指示した。最終的に書類送検されて厚労省のリストに載ったとき、現場の同僚たちが口にしたのは『これでやっと世間にバレた』という安堵の吐息だった」
また、近年社会的な怒りを買っているパワハラ企業名公表を巡る議論も見逃せません。労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)に基づき、厚生労働大臣による是正勧告に従わない場合は企業名公表が可能と定められています。しかし、送検件数が毎月数十件規模に及ぶ労働基準法違反と比べ、パワハラ単独による社名公表はハードルが極めて高く、適用件数はごくわずかに留まっています。現場では暴力や暴言、過剰な退職勧奨が吹き荒れていながら、パワハラ防止法ルートでの公表を逃れ、残業代未払いや労災隠しを端緒として初めて事件化するケースが圧倒的多数を占めているのが実情です。