龍は東洋の神話において、水を司り天候を操る霊獣であり、皇帝の権威や神仏の化身とされてきました。刺青の世界において、背中の龍が天を仰いでいるのか、地上を見下ろしているのかによって、身に宿す意味合いは対照的な性質を持ちます。
天に向かって身体をうねらせる「昇り龍」は、大願成就や立身出世、目標に向かって突き進む強い上昇志向を象徴します。困難を打破して成功を掴み取りたいという挑戦の意志を込める際に選ばれる代表的な構図です。
一方、頭部を下に向けた「降り龍」は、天から地上へ降り立ち、人々に慈雨や福徳をもたらす守護の象徴です。すでに一定の力を得た者が、周囲を守り導くという成熟した覚悟や仏教的な慈悲を表現します。「降りる=運気低下」と誤解されがちですが、伝統的な和彫りにおいて降り龍は決して不吉なものではなく、むしろ神格化された強力な守り神として扱われます。
また、龍の顔の向きや視線にも意味があります。心臓に向かって顔を向ける構図は「自らの魂と龍の一体化」を促すとされ、外側を睨みつける構図は「外敵や厄災を払う魔除け」としての役割が強まります。禁忌として語られるのは、龍の目を最初から描き込んでしまう「画竜点睛」の誤用です。和彫りでは、筋彫りから色入れを経て、最後に瞳を入れることで魂が吹き込まれると考えられており、順序を誤ることは彫師の間でも厳しく戒められています。