黒塗りのバスや大型四輪駆動車の屋根に巨大なスピーカーを載せ、けたたましい音量で軍歌や演説を流す行為には、明確な戦術的理由が存在します。街宣活動を行う右翼団体(政治結社)にとって、音響は単なる主張伝達の手段ではなく、空間を支配するための実力行使に近い役割を果たしています。
第一の目的は「圧倒的な存在感の誇示と心理的威圧」です。人間は大音量の重低音や金属的な拡声器の音声に晒されると、本能的に強いストレスと恐怖を感じます。街宣を仕掛ける側は、特定の企業、公的機関、外国公館、あるいは対立する思想団体に対し、実力を行使することなく強烈なプレッシャーを与える手段として大音量を利用しています。
第二に「軍歌が持つ記号的効果」の利用です。「同期の桜」や「軍艦行進曲」などの軍歌は、かつての国家主義や軍隊のイメージを直感的に想起させます。団体の愛国的なスタンスを瞬時に通行人へ印象付けるとともに、日常の街頭空間を異質な緊張感で塗り替える心理的効果を狙っています。
一口に「右翼」といっても、その内実は一様ではありません。思想の啓蒙や理論研究を重視する「思想系・伝統右翼」が存在する一方で、大音量の街宣車を前面に押し出すグループは「街宣右翼」「行動右翼」と呼ばれます。後者の活動は、純粋な政治主張の発信というよりも、示威行動そのものが自己目的化しているケースも散見されます。