古代エジプトの人々は、自らが使う文字をエジプト語で「メドゥ・ネチェル(神の言葉)」と呼んでいました。文字には呪術的な力(ヘカ)が宿り、文字を刻む行為そのものが神聖な儀礼であると信じられていたためです。これに対し、私たちが親しんでいる「ヒエログリフ」という呼称は、ギリシャ語で「聖なる彫刻」を意味する「ヒエログリュフィカ(hieroglyphika)」を語源としています。
古代エジプトの文字文化を語る上で欠かせないのが、用途や時代に応じて使い分けられた3つの異なる書体の存在です。壁面に彫る壮麗な書体だけでなく、日常の実務を支えるスピーディな筆記体が存在していました。
神聖な祈りやファラオの偉業を永遠に残すためのヒエログリフに対し、官僚たちの徴税記録や手紙には流れるようなヒエラティックが重宝されました。やがて紀元前7世紀頃になると、より実用的なデモティックが登場し、一般庶民の商取引や法的手続きに広く浸透していきます。これら3書体の変遷こそが、3000年以上にわたる古代エジプト文字の歴史の重みを物語っています。