日本国内の個人ピアノ教室や大手楽器店のレッスン室を覗くと、幼児の譜面台には高確率で「ぴあのどりーむ」が置かれています。学研プラス(現Gakken)から刊行され、発刊から長い年月を経た現在もロングセラーとして君臨する背景には、田丸信明氏が提唱した緻密な幼児教育メソッドが存在します。
従来の標準教材であった「バイエル」は、ト音記号の右手高音部から始まり、左手はヘ音記号の伴奏形を後から導入する形式でした。しかし、このアプローチは未就学児にとって「左手の譜読みが遅れる」「右手ばかり動かして左右のバランスが崩れる」という大きな壁を生んでいました。そこで「ぴあのどりーむ」は、導入初期から「大譜表」を採用し、ピアノの鍵盤の中央にある「1点ハ(まん中のド)」を基点に、右手と左手へ対称的に音域を広げていく方式を採り入れました。
もう一つの特筆すべき要素は、絵本作家・永田萌氏らが手がける幻想的で温かみのある挿絵です。文字や音符を理解する前の幼児にとって、教本を開いたときの視覚的ストレスは練習意欲を大きく左右します。楽譜の1ページあたりの音符数を最小限に抑え、余白とイラストを贅沢に配置することで、「練習本」ではなく「お気に入りの絵本を開く」感覚でピアノに向かわせる心理設計が徹底されています。