へっついは、庶民の喜怒哀楽を描く落語の演目にも欠かせない小道具として登場します。その筆頭が、上方落語・江戸落語の双方で名作として受け継がれている『へっつい幽霊』です。
『へっつい幽霊』のあらすじは、道具屋で安く売られている中古のへっついを買った者が、夜な夜な現れる幽霊に脅かされて次々と手放してしまうところから始まります。実はそのへっついの側面の土の中に、亡くなった博打打ちが生前に貯め込んだ大金(三百両)が塗り込められていたのです。金を取り出した後、成仏したはずの幽霊と主人公がサイコロ博打に興じるコミカルな結末は、落語ファンに親しまれる屈指のハイライトとなっています。
また、『へっつい盗人(ぬすっと)』という演目では、重くて持ち運ぶのが困難なはずのへっついを、盗賊がわざわざ長屋から盗み出そうとする珍騒動が描かれます。こうした噺(はなし)が成立すること自体、当時の庶民にとってへっついが買い替えや質入れの対象になるほど価値があり、生活に密着した財産であったことを証明しています。