ウォルト・ディズニー・カンパニーのアーカイブ施設に眠る膨大な資料からは、私たちがスクリーンで目にする決定稿に至るまでの驚くべき試行錯誤が浮かび上がる。初期のコンセプトアートでは、19世紀のヴィクトリア調を色濃く反映した重厚なラッフルや幾重にも重なるペチコートなど、よりクラシカルで制約の多い衣装案が検討されていた。しかし、陸に上がったばかりのアリエルが覚える「足で大地を踏みしめる驚きと解放感」を表現するため、無駄な装飾は削ぎ落とされ、動きに連動して軽やかに広がるヘムラインへと改良された経緯がある。
実写版においても、数多くの未公開スケッチが存在する。陸上の王宮生活に順応しようともがきながらも、どこか海の気配を漂わせるデザイン案として、貝殻の微細な光沢を模した特殊なビーズ刺繍や、海藻の繊維構造から着想を得た手織りのマテリアルなどが試作された。アニメ版のファンタジックな美意識と、実写映画が要求する物質的なリアリティ。双方が高度に融合した未公開のディテール群は、いまなおファンや研究者の知的好奇心を刺激し続けている。