案内状に記載された「私服でお越しください」という言葉を額面通りに受け取り、ジーンズやロゴTシャツ、パーカーなどで研修会場に足を踏み入れ、周囲の全員がジャケット姿だった時の冷や汗は想像に難くありません。ではなぜ、企業側は最初から「スーツ着用」と指定せず、わざわざ「私服」と書くのでしょうか。そこには企業側の異なる思惑が交錯しています。
人事労務関係者への取材や企業が公表するオンボーディング資料を総合すると、私服指定を出す背景には主に3つの意図が存在します。第1に「リラックスした環境でワークショップやディスカッションに臨んでほしい」という心理的負担の軽減、第2に「グループワークや体を使った研修で動きやすくするため」という実務的配慮、そして第3に「ビジネスパーソンとして最低限のTPOを自ら判断できるか」という観察の意図です。
ここで新社会人が陥りやすい落とし穴が、入社式と研修における服装の格差です。入社式は厳格な儀礼の場であるため、全員が黒や濃紺のフォーマルなスーツを身にまといます。しかし、翌日から始まる導入研修で突然「私服指定」に切り替わると、基準が一気に曖昧になります。この時、多くの先輩社員や人事担当者が口を揃えるのが、リクルートスーツ着用が無難とされる決定的な理由です。スーツは「個性を消す服」ではなく、ビジネスの現場において「相手に不快感を与えず、礼儀を欠いていないこと」を無条件で証明する強固なセーフティネットとして機能するからです。