本作の主人公は、しばらくのあいだ田舎のおばあさんの家で暮らすことになった少年です。その家は柱が太く、天井が驚くほど高く、昼間でも薄暗い昔ながらの古い日本家屋でした。少年は、薄暗い高い天井や、頭上に重々しく横たわる太い梁(はり)が気になって仕方がありません。何かがそこに潜んでいるような、息をひそめて自分を見下ろしているような、得体の知れない気配を常に感じ取っていました。
ある日、少年はおばあさんにその不安を正直に打ち明けます。「うえの くらい ところに だれか いるような きがするの」。すると、縁側で静かにお茶を飲んでいたおばあさんは、少年に向かってこう言い含めました。「みなければ いいのさ。みなければ、いないのと おなじだからね」。この言葉に少年は一度安堵し、見上げないように日々を過ごそうとします。
しかし、人間は「見るな」と禁じられるほど、意識がそこへ引き寄せられてしまう生き物です。物語のクライマックス、少年は抗いがたい衝動に駆られ、つい天井の暗がりをまともに見上げてしまいます。そこには、梁の上に腹ばいになり、異様に裂けた口元と血走った目窩(るか)でこちらを凝視する「梁の上の男」が実在していました。そして男は、凍りつく少年に向かって「……いる」と低く嗤うのです。日常の平穏が粉々に砕け散り、逃げ場のない狂気が確定した瞬間、物語は突如として幕を閉じます。