医療保険を巡る議論で避けて通れないのが、故・山崎元氏に代表される経済論客や中立的なファイナンシャル・プランナーによる「医療保険不要論」だ。山崎氏は長年、民間の医療保険は手数料が高く、期待値の低い「損な賭け」であると鋭く指摘してきた。
論理的には正しい。期待値で考えれば、保険会社が利ざやを取る以上、加入者が支払った保険料の総額よりも受け取る給付金の平均額の方が低くなるのは当然だ。だからこそ「医療費は貯蓄で備え、保険は滅多に起きないが起きたら破滅する大損害(死亡や重度障害)だけに絞るべきだ」という主張は、合理的なお金の知識として広まった。
だが、理論上の正解と個人の感情・現実のキャッシュフローの間には深い溝がある。急な病気で数十万円の貯金が一気に減っていく精神的ストレスは、数値計算では測れない。不要論の真意は「無知のまま無駄な特約付き高額保険に入るな」ということであり、「無防備のまま病気リスクに晒されろ」という意味ではなかったはずだ。