歌舞伎役者の妻、いわゆる「梨園の妻」に課される役割は、一般的な結婚生活のイメージを遥かに超越している。毎月のように行われる本公演の初日から千秋楽まで、劇場ロビーでの来賓対応や贔屓筋への細やかな気配りが欠かせない。朝早くから夜遅くまで、役者が舞台に専念できる完璧な環境を整えることが求められるのだ。名門・中村屋の妻ともなれば、そのプレッシャーは想像を絶するものがある。
また、着物の着こなしやマナー、歌舞伎の歴史や演目に対する深い理解はもちろんのこと、贔屓筋の名前や顔を即座に記憶し、失礼のない対応をこなす社交性も必須となる。単に「華やかな世界に嫁ぐ」という甘い認識では到底務まらない過酷な世界だ。だからこそ、七之助が選ぶ伴侶には、彼の芸術活動を包み込む深い理解力と、古風な伝統社会に柔軟に適応できる人間性が不可欠とされるのである。