家庭用の冷凍庫に肉や野菜を入れると、組織内の水分が凍って大きな氷の結晶をつくり、細胞膜を突き破って破壊してしまいます。解凍時に肉汁が流出してしまうのはそのためです。人間の肉体も、単に氷点下へ放り込めば全身の細胞が物理的に壊滅します。
そこで考案されたのが、「ガラス化(Vitrification)」と呼ばれる特殊な充填手法です。
死亡宣告後、待機していたチームは即座に人工心肺装置を取り付けて遺体の酸素供給と血流を代行維持し、体温を徐々に低下させます。その後、全身あるいは頭部の血管から血液を抜き取り、代わりに極微小な温度でも結晶化しない抗凍結保護剤(CPA)をポンプで循環させます。体内の水分を高粘度の保護溶液へとすり替えた状態で、最終的にマイナス196℃の液体窒素の中へ静置する手順を踏みます。氷の結晶を一粒も作らず、ドロドロのシロップがそのままガラス状の固体へと固まるため、劇的に破裂を防ぐことができます。
画期的なプロセスに見えるガラス化ですが、現在の技術では看過できないデメリットと致命的リスクを抱えています。
氷晶による破壊を避けるために注入する高濃度の抗凍結剤そのものに強力な化学的細胞毒性がある点です。保存溶液自体が生体組織を痛めてしまうジレンマが生じます。急激な熱収縮による微細なクラック(ひび割れ)が脳組織に生じることや、臓器ごとの冷却速度のばらつき、解凍時に均一に加熱できず再結晶化が起きる危険など、乗り越えるべきハードルは無数に存在します。