脱炭素の掛け声とともにバッテリーEV(BEV)への全面移行が叫ばれていた時期に、なぜマツダは膨大な開発費を投じて完全新設計の縦置き「直列6気筒エンジン」と「後輪駆動(FR)プラットフォーム」を世に送り出したのか。その根底には、エンジニアリングの純粋な理想主義と、生き残りをかけたシビアな経営戦略が交錯していました。
マツダの公式技術発表資料および開発責任者らの証言を紐解くと、掲げられていたのは「ビルディングブロック戦略」に基づく適材適所のマルチソリューションです。世界中の電力供給環境やインフラ整備が均一でない以上、内燃機関を極限までクリーン化・高効率化することこそが現実的なCO2削減につながるという論理でした。
技術面における白眉が、新世代直列6気筒ディーゼルエンジンのe-SKYACTIV D 3.3です。「排気量を小さくして過給する」という従来のダウンサイジング思想とは真逆の「ライトサイジング(最適排気量)」を採用。3.3リッターという大排気量を活かし、余剰空気をふんだんに使った独自の空間混合予混合燃焼(DCPCI)を実現しました。これにより、全域で希薄燃焼を可能にし、40%を超える最高熱効率を叩き出しています。さらにガソリンエンジンには、滑らかな吹け上がりを誇るe-SKYACTIV G 3.3をラインナップし、内燃機関が持つ官能性と環境性能の両立を追求しました。
もうひとつの決定的な動機が、ブランドの「プレミアム移行」です。グローバル市場において、大衆車ブランドの熾烈な価格競争から抜け出し、BMWやメルセデス・ベンツ、ボルボなどのプレミアムセグメントと伍していくためには、ステータス性の高い「縦置き直6 FR」のプロポーション(長いボンネットと後退したキャビン)と、重量配分に優れた走りの質感が不可欠だったのです。この大いなる野心こそが、マツダ ラージ商品群誕生の引き金となりました。