「なぜ今、五重塔を見られなくしてまで工事をしなければならないのか」という点には、木造建築物を後世に残すための切実な構造的理由があります。現在の五重塔は、室町時代の応永33年(1426年)に再建された6代目の建物であり、前回の本格修理は明治34年(1901年)に行われました。つまり、およそ120年もの間、本格的な大修理が行われてこなかったのです。
長年の歳月により、屋根瓦の破損やズレ、瓦の下にある土(葺き土)の流出、接合部の緩みや漆喰壁の剥落が進行し、放置すれば雨漏りによる内部構造材の腐食という致命的な危機に直面しかねない状況にありました。今回の工事は、単なる美観の回復ではなく、建造物の命を今後100年先へ繋ぐための必須措置なのです。
なお、インターネット上などで「五重塔が完全にバラバラに解体される」という噂が散見されますが、これは事実と異なります。法隆寺金堂や薬師寺東塔のような「全解体修理(すべての部材を一度解体して組み直す工法)」ではなく、今回は「屋根瓦の全葺き替え」「傷んだ部材の部分的な修繕」「漆喰塗り替え」を中心とする半解体修理です。塔の骨格である心柱や主要な軸組を維持したまま、綿密な補修が施されています。
天平2年(730年)、聖武天皇の皇后である光明皇后の発願によって創建された五重塔は、高さ約50.1メートルを誇り、木造塔としては京都の東寺五重塔に次ぐ日本第2位の高さを誇る国宝です。5度の焼失を乗り越え、古都の誇りとしてそびえ立ってきた歴史的重みがあるからこそ、妥協のない保存作業が求められています。