ネット上の情報や一般的な料理の常識には、知らず知らずのうちに思い込まされている危険な落とし穴が潜んでいます。その最たるものが、前述した「大さじ1杯は一律15gである」という固定観念です。
学校の家庭科実習などで「大さじ=15」「小さじ=5」という数字を暗記した結果、それが体積(ml)ではなく重さ(g)の単位であると混同してしまうケースが後を絶ちません。調味料ごとの大さじ1杯の重量を比較すると、その違いは一目瞭然です。
水、醤油、酒、みりんは比重が水に近いため、大さじ1杯はおおむね15g〜18gの範囲に収まります。一方で、油類(サラダ油やオリーブオイル)は比重が水より軽いため大さじ1杯で約12g、薄力粉は大さじ1杯で約9g、そして上白糖も約9gです。つまり、「大さじ1」という指示は液体の重さを基準にしたものでは決してありません。
さらに見逃せない盲点が、「単に『砂糖』と書かれている場合、プロのレシピは何を指しているのか」という問題です。日本の出版業界やメディアにおける調理基準では、和食・家庭料理レシピで単に「砂糖」と表記されている場合は原則として「上白糖(大さじ1=約9g)」を基準に試作されています。一方で、本格的なフランス菓子やイタリア料理の専門書、海外翻訳レシピにおいて「砂糖」とある場合、そのほぼ100%が「グラニュー糖(大さじ1=約12g)」を想定しています。
洋菓子のレシピで指定された「砂糖大さじ3」を日本の家庭の上白糖でそのまま代用すると、重量換算で約9g不足します。逆に家庭料理のレシピに「砂糖大さじ2」とあるところを、手元にあったグラニュー糖で代用すると、甘みと重さが約1.3倍に膨れ上がります。レシピの出自を見極め、使用する砂糖の性質に合わせた補正を行うことこそが、ネットの噂に惑わされない調理リテラシーと言えます。