納谷兄弟を語る上で欠かせないのが、彼らの本名と四股名に刻まれた血統の象徴です。4兄弟全員の本名には、祖父である大横綱・大鵬の戸籍名「納谷幸喜(こうき)」から一文字取られた「幸」が共通して名付けられています。名付けの背景には「どれほど厳しい勝負の世界にあっても、人としての幸せを見失わないでほしい」という母と家族の切実な祈りが込められていました。
そして相撲道に進んだ3兄弟に与えられた四股名には、いずれも伝説の巨鳥を意味する「鵬」の文字が宿っています。中国の古典『荘子』に登場し、ひとたび羽ばたけば九万里の天へと昇るとされる「鵬」。相撲界においてこの字を名乗ることは、昭和の大鵬が築き上げた金字塔(幕内優勝32回)を常に想起させる諸刃の剣でもありました。
三男に授けられた「王鵬」という四股名には、「大鵬の血を受け継ぎ、土俵の王者として君臨せよ」という大嶽親方(元十両・大竜)の並々ならぬ期待が込められています。入門当初は本名の「納谷」で土俵に上がり、幕下で圧倒的な地力を示してから「王鵬」へと改名したプロセスは、安易に血筋を誇示させず、実力で四股名を勝ち取らせるという師匠の深い配慮によるものでした。
一方、四男の「夢道鵬」には「自らが信じた相撲の道を貫き、夢を掴み取れ」という自立のメッセージが込められています。大鵬の影を追うのではなく、自分だけの道を進めという教えが、四男の粘り強い取り口を支える精神的支柱となっています。