師匠の休席に伴い、ピンチヒッターとしてオレンジ色の着物を託された林家たい平さん。当初、その肩にかかる重圧は想像を絶するものでした。「偉大な師匠の席を汚してはいけない」「自分が座っているのは、あくまで師匠が戻ってくるまでの仮の場所だ」――。たい平さんは当時のインタビューで、プレッシャーに押しつぶされそうだった胸の内を明かしています。
大喜利の舞台でたい平さんが「チャラーン」を口にするようになった背景には、深い葛藤がありました。師匠の十八番を弟子が安易に真似れば、「売名」「物真似」と批判を浴びかねません。それでもたい平さんが挨拶を叫び続けたのは、「テレビを見ている師匠に『あなたの席はここにある』と伝えたかった」という一心からでした。
病床のこん平さんは、画面越しに自分のギャグを全力で放つ弟子の姿を見て、涙を流しながら「たい平、ありがとな」と喜んだといいます。こん平さんが遺した教えは極めて明快でした。「客席を怖がるな。自分の言葉でお客様を抱きしめろ」。形式としての落語の技術以上に、客を喜ばせることへの徹底的な執着こそが、こん平一門の神髄だったのです。