現役時代の幕之内一歩は、愚直なまでのインファイターだった。打たせて打つ。被弾を恐れぬ突進力は彼の代名詞でもあったが、同時にその代償は大きかった。脳へのダメージ蓄積。それが現役引退を決意させた最大の引き金だったことは記憶に新しい。
だが、セコンドとしてリングの外側からボクシングを鑑賞・分析する立場を得たことが、一歩のボクサーとしてのIQを爆発的に跳ね上げた。相手の視線、体重移動、呼吸の隙。以前なら勘と度胸で突っ込んでいた場面で、いまの一歩は完璧な「理」を持って相手の攻撃を完封する。まさに禍を転じて福となす。現役を退いた期間こそが、彼を「最高のボクシングサイボーグ」へと昇華させたのだ。