退院を迎えたからといって、リハビリテーションが終了したわけではありません。入院期間が短縮傾向にある現在、実質的な機能回復訓練は在宅生活の中で行われます。人工股関節置換術後のリハビリ期間は、退院後おおむね3か月から半年にわたり、筋力増強と歩行パターンの再構築を継続する必要があります。
現場復帰に向けた実用的な課題として頻繁に議論されるのが、人工股関節の手術後に車の運転はいつから再開できるのかという疑問です。日本人工関節学会などの知見や各種臨床研究によると、運転再開の目安は「術後4週間から8週間」とされています。これは単にアクセルを踏めるか否かではなく、危険を察知した際にブレーキを強く瞬時に踏み込める踏力(急制動力)が回復しているかどうかが問われるためです。特に右足を手術した場合、急ブレーキの反応時間が術前と同等に戻るまでに最低4週間は要すると報告されています。地方都市で通勤にマイカーが不可欠な職種の場合、自己判断で運転を急ぐ行為は重大事故につながる極めて危険な賭けです。
また、公共交通機関を利用する通勤者にとっての人工股関節の退院後の生活注意点として、朝夕の満員電車における不意の外力があります。揺れる車内で踏ん張った瞬間や、他者と接触してよろめいた際に股関節へ異常な回旋ストレスがかかる恐れがあります。復職初期はラッシュ時を避けた時差通勤や、可能であればタクシー利用、家族による送迎といった自衛策をあらかじめ講じておく姿勢が欠かせません。