自然界において「目立つ」ということは、天敵である鳥類や捕食性昆虫に対して自らの居場所を暴露する自殺行為にほかなりません。それにもかかわらず、ニシキオオツバメガは保護色で身を隠すどころか、太陽が燦々と照りつける白昼堂々、優雅に空中を滑空します。この命知らずな行動を可能にしている決定的な武器こそが、体内に蓄積された強烈な毒性です。
毒の起源は、幼虫時代の過酷な食生活にあります。ニシキオオツバメガの幼虫は、マダガスカル島に自生するトウダイグサ科のオムファレア属(Omphalea)の葉だけを偏食します。この植物は、捕食者に対する防御物質として強力な神経毒・心臓毒性を持つポリヒドロキシル化アルカロイドを分泌しており、並の草食昆虫であれば口にしただけで死に至ります。しかし、ニシキオオツバメガの幼虫はこの毒素に耐性を持つだけでなく、自らの体組織内に高濃度で蓄積(隔離)する代謝システムを進化させました。
幼虫が蛹(さなぎ)を経て成虫へと変態しても、その毒素は体内に保持され続けます。万が一、空腹の野鳥が捕食しようものなら、激しい悪心、嘔吐、痙攣を引き起こし、二度とその姿を襲うことはありません。つまり、あの眩いばかりの極彩色は、鳥類に対して「私を口にすれば命に関わる」と警告する警戒色(アポセマティズム)なのです。美しさは単なる装飾ではなく、絶対的な毒の盾を持つ強者のみに許された、最も効果的な威嚇シグナルと言えます。