近年のトラウマ臨床やポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)の進展により、防衛反応のバリエーションは古典的な2択にとどまらないことが実証されています。圧倒的な脅威に直面し、戦うことも逃げることも不可能だと脳が判断した瞬間に現れるのが「フリーズ(凍結/硬直)反応」です。
野生動物が捕食者に捕らえられた際、死んだふりをして痛覚を麻痺させ、隙を見て逃れる最後の防衛手段です。人間においても、激しいショックや叱責を受けた際に「頭が真っ白になり声が出ない」「体が金縛りのように動かない」状態に陥るのは、背側迷走神経複合体が作動して心拍と血圧を急低下させ、身体活動を停止させている証拠です。
心理学ではさらに、自己を犠牲にして相手に従属する「迎合(Fawn)」を加えた4Fモデル(Fight, Flight, Freeze, Fawn)として体系化が進んでいます。パワハラ環境下で反論できず笑ってやり過ごしてしまう心理も、意志の弱さではなく神経系による生存適応行動の一つと解釈できます。