インターネット上のレビューやSNSの投稿で頻繁に目にするのが、「佐賀市内の焼き鳥は持ち帰って時間が経っても脂が固まらず、柔らかいまま食べられる」という高評価です。居酒屋のカウンターで食べる焼き立てが美味しいのは当然ですが、なぜテイクアウトでもその品質が落ちにくいのでしょうか。取材と調理科学の観点からその真相を紐解くと、佐賀特有の「仕込みの流儀」と「調味料の特性」が浮かび上がってきます。
最大の理由は、佐賀をはじめとする北九州一帯で受け継がれてきた「串打ちの密度」と「肉の保水設計」にあります。冷めてパサつく最大の原因は、加熱時に肉の水分と脂が蒸発し尽くしてしまうことです。地元の熟練職人は、テイクアウト需要を前提として肉と肉の間に適度な皮下脂肪を挟み込み、炭火の強火で一気に表面をキャラメリゼ(メイラード反応)させて肉汁を閉じ込めます。外側を強固に焼き固めることで、自宅に持ち帰るまでの20〜30分の間に内部で肉汁がじんわりと全体へ馴染む構造を作っているのです。
もう一つの要因が、地元・佐賀の老舗醤油蔵が造る甘口の濃口醤油をベースにした「秘伝のタレ」です。アミノ酸と糖度が高い九州醤油は保水性に優れ、肉の表面をコーティングして酸化と乾燥を強力に防ぎます。塩焼きの場合でも、精製塩ではなく天日塩や昆布粉末をブレンドした特製塩を使う店が多く、ミネラル分が肉の繊維を硬直させません。さらに電子レンジで温め直す際、皿にクッキングシートを敷いて軽く酒を振る一手間を加えるだけで、まるで焼き台の前にいるかのような弾力が蘇ります。