BAD HOPの物語を語る上で決して外せないのが、彼らの出身地である神奈川県川崎市川崎区池上町という街の存在です。京浜工業地帯の中心に位置するこのエリアは、戦後日本の高度経済成長を支えた工場群に囲まれ、複雑な歴史的背景と貧困、治安の悪化が長年指摘されてきた地域でした。
メンバーの多くは母子家庭や複雑な家庭環境で育ち、幼少期から暴力や金銭トラブル、非行が日常に隣り合わせの生活を送っていました。T-PablowやYZERRをはじめ、メンバーの多くが未成年時に少年院や鑑別所での生活を経験するなど、その生い立ちは過酷を極めていました。当時の特番ドキュメンタリーや自著の中で語られた「生きるために悪さをするか、音楽で人生を変えるかしか選択肢がなかった」という告白は、彼らの表現の根幹にある切実さを象徴しています。
転機となったのは、アメリカのヒップホップカルチャーとの出会いでした。地元・川崎の先輩たちの影響でラップに目覚めた彼らは、2012年にT-Pablow(当時K-九)が『第1回 高校生RAP選手権』で優勝。さらに第5回大会ではYZERRが優勝を果たし、双子の兄弟が全国的な知名度を獲得します。彼らは単なる不良グループから脱却し、幼馴染8人で「BAD HOP」を結成。「自分たちのリアルな生活と悔しさを音楽に変えて、必ず全員で成り上がる」というストリートの誓いが、伝説の始まりとなりました。