客席から見えるのは、絢爛豪華な衣裳を身に纏い、見得を切る役者の姿だけだ。だが、一歩楽屋の裏側に足を踏み入れれば、そこには張りつめた緊張感が漂う。伝統芸能の家系に嫁いだ女性たちが担う任務は、単なる家事の域を遥かに超えている。
まず筆頭に挙げられるのが、興行を手がける松竹株式会社の関係者や、長年家を支援してくれる贔屓筋への徹底した挨拶回りだ。正月に東京・東銀座の歌舞伎座で開幕する初春大歌舞伎の現場では、着物姿でロビーに立ち、来場する重要人物の顔と名前を完璧に記憶して迎える姿が見られる。チケットの手配から贈答品の選定、お礼状の手書きに至るまで、手落ちがあれば家の信用に関わる。眠れぬ夜を重ねながら家業を差配する彼女たちの苦労は、表に出てくることは滅多にない。