ビルメンテナンスや工場配線の現場において、新人技術者が最も混乱するのがテスターによる電圧測定です。三相3線式回路でマルチメーターを当てる際、「線間電圧」と「対地電圧」を明確に区別しなければ重大な誤認につながります。
まず、3本の電線のうち任意の2本を測る「線間電圧測定」では、どの組み合わせでも理論値として約200V(実測値で202V〜208V程度)が示されます。
- R相 - S相 間:約200V
- S相 - T相 間:約200V
- T相 - R相 間:約200V
混乱が生じるのは、電線と建物の大地(アース)との間の電圧を測る「対地電圧測定」です。日本の高圧受電設備(キュービクル)や電力会社の低圧配電トランスにおいて、三相3線式200Vは保安上の理由から「S相(第2相)」がB種接地工事によって接地されています。その結果、測定値は次のように極端な非対称を示します。
- R相 - 大地間:約200V
- S相 - 大地間:約0V(大地と同電位)
- T相 - 大地間:約200V
「テスターを当てたら0Vだったから停電している」と誤認して素手で触れると、S相以外の相に触れた瞬間に200Vの対地電圧で激しい感電事故に発展します。現場では「S相は接地されているが、通電状態であることに変わりはない」という安全意識の徹底が義務付けられています。
さらに配線色と「相回転(相順)」の管理もクリティカルです。日本工業規格(JIS C 0444)および内線規程では、受電端から見て三相3線の配線色は「第1相(R相):赤」「第2相(S相):白」「第3相(T相):青(または黒)」で色分けするのが一般的です。
三相モーターは、印加される電圧の波が到達する順序(R→S→T)に沿って回転します。仮に改修工事やブレーカー交換の際に配線を1組入れ替え(例:RとTを入れ替え)、逆相(T→S→R)にしてしまうと、モーターが設計とは逆方向に高速回転します。ポンプであれば送水不能やインペラの脱落、コンプレッサーであれば焼き付き、昇降機であれば安全装置の破壊といった破滅的な設備破損を引き起こします。現場投入前には、必ず回転盤式の検相器を接続し、正常な時計回り(正相)であることを目視確認するステップを省いてはなりません。