規格が同じであるならば、なぜ「microSD」という世界共通の統一名称に一本化されないのか。その背景には、2000年代初頭の携帯電話の劇的な小型化競争と、フラッシュメモリ業界の知財ビジネスが深く絡み合っている。
TFカードのルーツは、2004年に米サンディスク(SanDisk)社と米モトローラ(Motorola)社が共同開発した「TransFlash」に遡る。当時、急速に普及していた折りたたみ式携帯電話向けに、従来のSDカードよりも圧倒的に小さな記録媒体が求められた結果、外形寸法わずか15mm×11mm×1.0mmという超小型メディアが誕生した。サンディスク社は本規格の普及を加速させるため、SD規格の標準化団体である「SDアソシエーション(SDA)」へ仕様を移管。2005年にSDAによって正式規格「microSD」として追認・改称された経緯がある。
それから20年以上が経過した現在も、中国・深センをはじめとする海外メーカー製ドライブレコーダーやトイカメラ、スマート家電の説明書に「TF Card」の文字が残り続ける背景には、冷徹なコスト管理と商標権の問題がある。
製品パッケージや取扱説明書、金型成型された本体スロット部に「microSD」の公式ロゴマークを印字・掲示するためには、SDアソシエーションへの加盟や厳格な認証、そして所定のライセンス契約が求められる。一方、「TF」という表記は商標上の制約を受けない単なる技術呼称として扱えるため、ライセンス費用を抑制して端末価格を1円でも下げたい中小ハードウェアメーカーにとって極めて都合が良い。また、現地のプリント基板(PCB)設計現場や金型工場において、回路図のシルク印刷に「TF」と印字する開発慣行が定着してしまっていることも、呼称が自然消滅しない構造的要因となっている。