事態を重く見た山口県警察は、田口を電子計算機使用詐欺の容疑で逮捕した。しかし、この立件は法曹界で激しい議論を巻き起こすことになる。誤送金されたと知りながらオンライン決済システムを利用して資金を移動させた行為が、果たして刑法上の「虚偽の情報を与えて財産上不法の利益を得た」ことに該当するのか。従来の銀行窓口での引き出し(詐欺罪)とは異なる、ネットバンキング特有の法的解釈が問われた。
山口地方裁判所での公判において、弁護側は「システムに虚偽のデータは入力しておらず、民事上の不当利得返還義務にとどまる」と無罪を主張。これに対し検察側は、正当な権限がないにもかかわらず送金指示を出したこと自体を違法と位置づけた。下された有罪判決(懲役3年、執行猶予5年)は、デジタル社会における新たな財産犯の境界線を引く重要な司法判断として、判例集にその名を深く刻むこととなった。