あの日、館内の空気は異様な熱気を帯びていた。平成3年大相撲夏場所の初日、東の正横綱として土俵に上がった千代の富士 貢の前に立ちはだかったのは、当時18歳の若き新星・貴花田(後の横綱・貴乃花 光司)だった。
仕切り線で睨み合う両者。圧倒的な経験と筋力を誇る百戦錬磨の大横綱に対し、若さと恐れを知らぬ前進気勢で勢いに乗る新鋭。立ち合い、鋭く踏み込んだ千代の富士だったが、次の瞬間、左四つから頭をつけて前に出た貴花田の圧力に屈し、寄り切られて土俵を割った。
館内に舞い散る無数の座布団と、地鳴りのような歓声。それは、ひとつの時代の終わりを告げる決定的な合図だった。