日本本土に生息するツキノワグマと、北海道に君臨するヒグマでは、体格差だけでなく発する音の周波数や威嚇のパターンにも明確な差異が存在する。山林に入る者がまず把握しておくべきは、この2種が放つ音圧とトーンの違いだ。
本州・四国に広く生息するツキノワグマの威嚇音は、非常に鋭く短期的だ。至近距離で人間と遭遇した際、ツキノワグマは声帯を鳴らすというよりも、肺の空気を爆発的に押し出す「フッ!」「ハッ!」という呼気性の破裂音を放つ。自らの驚きと防衛本能が極限に達した際には、金属が擦れるような甲高い威嚇声を上げ、相手を怯ませて逃走を図ろうとする傾向が強い。
一方、国内最大の陸上哺乳類であるヒグマの唸り声は、空気そのものを震わせる重低音のグロウル(咆哮)が特徴だ。「グルルル……」「ウオオオ」という地響きに近い周波数は、数百メートル先まで届く音圧を誇る。ヒグマが放つこの低周波音は、聴覚だけでなく人間の皮膚や内臓に物理的な振動として伝わり、本能的な恐怖を呼び起こす。圧倒的なパワーの誇示と縄張りの主張が込められており、ツキノワグマの「怯えの威嚇」とは根本的に異なる攻撃性を秘めている。
また、母熊と行動を共にする幼獣の存在も見逃せない。子熊の鳴き声の理由は、母熊に対する位置情報の伝達と保護の要求にある。子熊は親とは全く異なり、「ピヨピヨ」「ミューミュー」とまるで小鳥や仔猫のような愛らしい高音で鳴く。しかし、この愛くるしい声の背後には、子供を守るために命がけで突進してくる獰猛な母熊が確実に存在する。子熊の鳴き声を聞いた瞬間は、山中で最も致死率が高いシチュエーションに直面していると認識しなければならない。