「なぜ、うちの子の体はこんなに柔らかいのか」という問いに対し、原因を一概に特定することは容易ではありません。筋肉の緊張を制御するシステムは、大脳皮質から小脳、脳幹、脊髄、末梢神経、神経筋接合部、そして筋肉組織そのものに至るまで極めて複雑なネットワークで構成されているためです。
医学書院『脳の機能解剖とリハビリテーション』などの専門知見に基づくと、低緊張の要因は大きく「中枢性(脳・脊髄由来)」と「末梢性(末梢神経・筋肉由来)」、そして「特発性・体質性」の3系統に分類されます。
第1に、明らかな器質的障害を認めない良性先天性筋緊張低下症が挙げられます。これは乳児期に顕著な筋緊張の低下を示すものの、中枢神経の奇形や代謝異常などの原疾患がなく、年齢とともに徐々に運動発達が追いついていくタイプです。家族歴として関節が柔らかい体質を受け継いでいるケースも少なくありません。
第2に、染色体異常や遺伝性疾患に伴う症候性低緊張です。代表的なものにダウン症(21トリソミー)やプラダー・ウィリー症候群があります。ここで多くの保護者が直面するのが「低緊張とダウン症の違い」に関する疑問です。ダウン症児にはほぼ必発と言えるほど強い筋緊張低下が認められますが、低緊張があるからといって直ちにダウン症を意味するわけではありません。ダウン症の場合は特徴的な顔貌、手掌単一屈曲線(ますかけ線)、先天性心疾患の合併など複合的な所見を伴うため、小児科医の視診および染色体検査(Gバンド法など)によって明確に鑑別されます。
第3に、低酸素性虚血性脳症や脳形成異常などの脳性麻痺の初期症状、あるいは脊髄性筋萎縮症(SMA)や先天性ミオパチーといった神経筋疾患です。進行性の疾患である場合、早期の遺伝子治療や薬物療法が運動機能の予後を決定づけるため、単なる「体の柔らかさ」で片付けずに鑑別診断を受ける医学的意義は極めて大きいと言えます。