私たちが普段目にする麦畑の穂は、実が詰まる前の段階でしっかりと花を咲かせています。麦の花が咲く季節は春から初夏にかけて(4月下旬〜5月中旬頃)であり、地域や品種によって多少前後するものの、桜の季節が過ぎ去った新緑の時期に本格的な開花時期を迎えます。
農林水産省の作物統計や農業試験場の栽培データによると、麦の開花は気温が約18℃〜22℃に達した晴天の日の午前中(概ね8時から11時の間)に集中します。驚くべきは麦の穂の開花時間の短さです。穂の隙間から頴(えい:外側の殻)がわずかに開き、中から黄色い葯(やく:花粉袋)をつけたおしべが顔を出す時間は、わずか20分から1時間程度に過ぎません。
開花と同時に花粉を放出し、おしべは用を終えると白く干からびて殻の外側に垂れ下がります。一般的な観賞用の花のように何日も美しさを保つのではなく、次世代へ確実に命をつなぐためだけに特化した極小のドラマが、麦畑では静かに繰り広げられているのです。