劇場版第12作『夕陽のカスカベボーイズ』における最大の焦点は、映画の登場人物つばきちゃんと主人公・野原しんのすけが紡いだ類まれな関係性にあります。テレビシリーズや他の劇場版で見せる「綺麗なお姉さんへの一目惚れ」というギャグ描写とは一線を画し、本作におけるしんのすけの態度は、最初から最後まで極めて誠実かつ真剣なものでした。
荒野の町「ジャスティスシティ」で過酷な労働と知事の圧政に怯える住民たちの中にあって、つばきちゃんは唯一、春日部から迷い込んだしんのすけ達に優しく手を差し伸べた少女でした。しんのすけは彼女を守るために危険を顧みず立ち上がり、保安官の理不尽な暴力にさらされた際も、つばきちゃんを庇うためにその身を投げ出します。この描写について、当時の制作関係者が残したインタビューや演出意図を辿ると、水島努監督が「5歳の少年に訪れる、無防備で純粋な初恋の痛み」を真正面から描こうとしていたことが浮き彫りになります。
春日部に帰ったら一緒に暮らそうと約束を交わし、未来を無邪気に信じるしんのすけの姿は、多くの観客の涙を誘いました。単なるコメディ映画の枠を超え、クレヨンしんちゃん映画名作の筆頭として本作が挙げられる理由は、この徹底して美しく、そして危うい「しんのすけ つばきちゃん 初恋」のリアリティにあるのです。