生類憐れみの令は、一般的に「1685年(貞享2年)に出されたひとつの法律」と誤解されがちです。しかし実際には、綱吉の治世後半にあたる約24年間に発令された135本以上の法令・通達をまとめた総称を指します。
その内容は犬の保護だけでなく、極めて多岐にわたっていました。
初期に出された令では「将軍のお成り(外出)の際に犬や猫を繋ぎ止めなくてもよい」という移動の自由を認める程度の通達でした。それが次第にエスカレートし、以下のような対象へと広がっていきます。
・馬や牛の保護:荷物を過剰に積載することの禁止、老いた馬の遺棄厳禁
・鳥類・魚介類の保護:鑑賞用小鳥の飼育制限、生きた魚鳥の食用販売規制
・人間に対する保護:捨て子の禁止と養育義務、行き倒れ人(旅先での急病者)の救助
内容を俯瞰すると、動物を優遇すること自体が目的ではなく、「命あるすべての存在をむやみに傷つけず、慈しむ」という儒教思想(仁政)に基づいた包括的な社会規範の再構築だったことが分かります。