「うちの会社では辞令を拒否したらクビになるのではないか」——そんな不安を抱える労働者は多い。法律上の実態はどうなのか。歴史的指標として必ず引き合いに出されるのが、1986年の最高裁判所判決、いわゆる東亜ペイント事件だ。この判決は、使用者に広大な配転命令権を認める基準を打ち立てた。
東亜ペイント事件以降、業務上の必要性があり、不当な動機や通常甘受すべき程度を超える著しい不利益がない限り、転勤命令は有効とされるのが長年の判例法理であった。しかし、労働基準法や現代の権利意識に照らし、裁判所の判断の風向きは確実に変化している。介護や育児の重い負担がある社員に対する強硬な転勤命令は、「配転命令権の濫用」として無効とされる判決が近年の下級審で相次いでいるのだ。