2010年、ロシア連邦サハ共和国北部の永久凍土海岸(オヨゴス・ヤール)で、地元住民によって信じがたい標本が発見されました。それが、推定年齢6〜8歳の若いメスのケナガマンモス「ユカ」です。氷点下の過酷な環境が天然の冷凍庫の役割を果たし、氷河期の息吹をそのまま現代へ運んできました。
これまで見つかった古代生物の化石やミイラ標本と比べても、マンモス・ユカの保存状態は異次元のレベルでした。赤みを帯びた柔らかな体毛、繊細な鼻の先端構造、肉球、さらには軟組織や筋肉、血管構造までもが乾燥・腐敗を免れて残されていたのです。さらに2012年には、ロシア科学アカデミーなどの研究チームによって頭骨からほぼ完全な形状を保った脳が摘出され、神経構造の解明に向けた世界的快挙として記録されました。
氷河期の厳しい環境に適応していたケナガマンモスの生態を解明するうえで、ユカの肉体はまさにタイムカプセルそのものでした。寒冷地特有の分厚い皮下脂肪層や密度の高い毛並み、さらには生前にホラアナライオンなどの肉食獣に襲われた痕跡や人類による狩猟の痕跡までが生々しく刻まれており、古生物学界の歴史を塗り替える貴重な学問的遺産となったのです。