競馬界で馬肉がタブー視される理由|引退馬食肉の真相と業界の現実

競馬界で馬肉がタブー視される理由|引退馬食肉の真相と業界の現実

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競馬界において「馬肉」の話題が忌避される最大の要因は、競走馬が持つ特異な二面性にあります。牛や豚、鶏と同じ法的な「家畜(産業動物)」でありながら、競馬ファンや厩舎関係者にとっては「固有の名前を持ち、人格(馬格)を認めた愛着の対象」として扱われる点です。

競馬ファンが特定の競走馬を応援するとき、そこには単なる賭けの対象を超えた強い感情移入が発生します。幼少期の生い立ち、怪我からの復活、レースで見せる懸命な走りに心を揺さぶられ、実質的に「アスリート」あるいは「家族同然のペット」として認知されるのです。心理学において、人間が深い情動的結びつきを感じている対象を「食材」として想起させられた際、強い認知的不協和(激しい精神的ストレスと嫌悪感)が発生します。競馬場で馬券を握りしめて涙を流した相手が、数か月後には皿の上に並んでいるかもしれないという想像は、ファンの精神的防衛本能によって強烈に遮断され、これが「語ってはならない暗黙のタブー」へと昇華します。

さらに現場の競馬関係者のタブー意識は、より複雑で深刻です。元JRA厩務員の手記やベテラン調教師のインタビューでは、次のような生々しい心情が明かされています。

「毎日朝3時に起きてボロ(フン)を掃除し、カイバ(飼料)の食い進みを気にかけ、脚元を冷やして手入れをする。家族よりも長い時間を一緒に過ごせば、我が子同然の情が湧くのは当たり前です。しかし、レースで勝てなければ馬主から預託料が支払われなくなり、厩舎から出さざるを得ない。その先でどうなるかを薄々察していても、自分たちにはどうすることもできない無力感がある。だからこそ、現場では『馬肉』という言葉自体が禁句になるのです」

生活の糧を得る産業でありながら、命を深く慈しむ現場スタッフの職業倫理。この相反する感情の板挟みこそが、関係者に固く口を閉ざさせる根本的な理由となっています。

山田 真由
著者

山田 真由

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