私たちが「炭の匂い」や「炭風味」と呼んでいる独特の風味。実は、木炭そのものが発する匂いではない。肉から滴り落ちた脂と肉汁が高温の炭に触れた瞬間、激しい熱分解が起きる。瞬時に蒸発した脂が微小な煙の粒子となり、再び肉の表面を包み込む。これこそが薫煙効果の正体である。
このプロセスで生じるフェノール類やカルボニル化合物などの複雑な香気成分が、肉本来のイノシン酸やグルタミン酸といった旨味成分と重なり合う。単に肉を加熱するだけでは生まれない、奥行きのある「炭味」がこうして完成するのだ。実験データでも、ガス焼きに比べて炭火焼きの方が香気成分の定着率が格段に高いことが実証されている。