タングステンという名を聞いて、かつての「白熱電球のフィラメント」を思い浮かべる人は少なくありません。トーマス・エジソンが京都の竹を炭化させて電球の実用化に成功した後、フィラメント素材の最終到達点となったのがタングステンでした。2000℃を超える白熱状態でも溶け落ちず、蒸発しにくいため球切れを起こしにくい――この特性が、世界中の夜を明るく照らしました。
照明の主役がLEDへと完全移行した現在、タングステンの主戦場は重工業と先端エレクトロニクスへ劇的にシフトしています。
1. 製造業の命綱「超硬合金工具」
タングステンの総消費量の約6割以上を占めるのが、炭素と結合させた「炭化タングステン(WC)」をコバルトなどで焼き固めた超硬合金です。自動車のエンジンブロック、航空機のチタン製ランディングギア、鉄道の車輪など、硬い金属を高精度かつ高速で削り出す切削工具・ドリル・エンドミルには不可欠となっています。
精密金属加工工場の技術者は、現場の過酷さを次のように証言します。
「熱処理した特殊鋼や難削材のインコネルを削る際、刃先の温度は800℃から1000℃近くに達します。普通の鋼鉄の刃なら一瞬で焼きなまって軟化しますが、超硬合金のチップは刃先形状を維持し続けます。超硬工具がなければ、現代の自動車や航空機の量産ラインは1日たりとも回りません」
2. 最先端半導体のプラグ・バリアメタル配線
2nm〜3nm世代の最先端ロジック半導体や3D NANDフラッシュメモリの内部では、タングステンが電気的接続を担う垂直電極(プラグ)やバリアメタルとして重用されています。微細化された極小スペースに化学気相成長(CVD)や原子層堆積(ALD)技術を用いてタングステンを隙間なく埋め込むことで、高密度かつ高信頼性の配線を実現しています。
3. 核融合実験炉・次世代エネルギーと医療・防衛
国際熱核融合実験炉(ITER)などの次世代エネルギープロジェクトでは、1億度を超えるプラズマの熱負荷と中性子線に直接晒される「ダイバータ対向材」にタングステンが採用されています。また、鉛と同等の放射線遮蔽能力を持ちながら人体への有害性が極めて低いことから、医療用CTスキャナーのコリメーター(放射線遮蔽板)やがん治療装置の部材としても需要が拡大しています。