かつては絶対的な壁とされていた白血球の型(HLA)の不一致や、血液型不適合の移植は、今や日常的な医療技術となった。高精度のHLA適合性検査により、レシピエントが持つ抗体の強さや拒絶反応のリスクが術前に詳細にマッピングされる。これに合わせ、泌尿器外科学の精密な手術手技と新規免疫抑制剤の巧みな組み合わせによって、従来なら断念せざるを得なかったペアでも移植が可能になった。
だが、適応の拡大は新たなトレードオフを招く。拒絶反応を力づくで抑え込むために強力な免疫抑制プロトコルを使用すれば、レシピエント側の感染症発症率や悪性リンパ腫などの発がんリスクは跳ね上がる。生涯にわたる服薬管理と厳重な副作用モニタリングが不可欠であり、薬の自己中断は即座に移植腎の廃絶へと直結する。
さらに、医療技術が進化して「移植できる対象」が広がった結果、本来であれば医学的・倫理的な観点から慎重になるべきボーダーラインのドナーに対しても、「手術が可能だから」という理由で提供を求めてしまうケースが懸念されている。技術の進歩が、ドナーの辞退する権利をかえって奪う結果になってはならない。