商業音楽の現場において、作詞家が日常的に直面する最も過酷な試練が「楽曲コンペ」です。アイドルグループの表題曲や大型アニメの主題歌コンペともなれば、1曲のメロディに対して100通から300通以上の歌詞案が集まることも珍しくありません。
音楽制作会社ディレクターや現役作詞家の手記・インタビューでは、その選考プロセスの冷徹さが赤裸々に語られています。ある現役作家は業界専門誌の特集において、「A&Rが最初のワンコーラスを聴いて歌詞カードに目を落とす時間は、わずか15秒足らず。冒頭の数フレーズでアーティストのコンセプトを体現できなければ、サビまで読まれることなくフォルダの奥に消えていく」と証言しています。
SNSや知恵袋などのクリエイターコミュニティでも、「半年間で50曲のコンペに歌詞を提出したが採用ゼロだった」「サビの1行を巡って深夜に何度も書き直しを命じられ、精神的に追い詰められた」といった生々しい体験談が散見されます。
さらに、当落を分ける決定的な要素として挙げられるのが音楽プロデューサーやA&Rとのコミュニケーション能力です。単に発注シート(ブリーフィング資料)に書かれたキーワードを機械的に並べるのではなく、「なぜ今、このアーティストがこのテーマを歌う必要があるのか」「制作陣が抱く言葉にできないモヤモヤをどう言語化するか」を察知するリサーチ力が求められます。阿久悠氏や松本隆氏をはじめとする歴代の著名作詞家たちが数々の自著で語ってきた通り、作詞の本質は「時代性とクライアントの深層心理を射抜くカウンセリング」に近い性格を帯びています。