前野の凄みを語る上で外せないのが、彼自身が映画監督としてのキャリアを持っている点だ。大阪芸術大学映像学科の出身であり、在学中から自主映画を制作。監督作『脚の生えたおたまじゃくし』などは、国内外の映画祭で高い評価を受けた。
カメラの「前」だけでなく「後ろ」に立つ人間の視点を持っているからこそ、彼は脚本の意図を誰よりも深く読み解くことができる。画面全体の構図の中で自分がどう映るべきか、どのタイミングで視線や呼吸を変えればシーン全体が引き締まるのか。計算し尽くされた間(ま)の取り方と、セリフに頼らない表情の微小な変化。これらはすべて、監督としての冷静な分析眼に裏打ちされたものだ。