江戸時代の庶民や武士、とりわけ髪を高く結い上げた女性たちにとって、枕は「頭を乗せるもの」ではなく「首を支える支柱」だった。日本髪の造形を維持するため、頭部を浮かせ、首の根元だけを箱の上の小さな「小枕」に預ける構造が採用されていたのだ。
この歴史的な設計思想に着目したのが、近年の睡眠整形外科医たちだ。現代のふかふかとした枕は、頭部を包み込む反面、首を後ろから押し出したり、顎を引きすぎた姿勢を作ったりしやすい。対照的に、首の生理的弯曲(S字カーブ)をダイレクトに支える箱枕の構造は、頚椎のアライメントを整えるうえで極めて理にかなっていたのである。