「ラーメンが1杯2,000円を超えるなんて高すぎるのではないか」。この議論は価格改定当時から各メディアやネット上で繰り返されてきました。しかし、湯河原の現場に足を運んだ利用者が退店時にこぼす言葉は、不満ではなく深い充足感です。
一杯2000円超えの理由の根底には、店主飯田将太の経歴と、彼が背負ってきた過酷な軌跡が刻まれています。実家の水産加工加工会社が抱えた1億円近い負債を背負い、叔父の経営するラーメン店で必死の修行を積んだ飯田氏。ラーメンの神様と仰ぐ「支那そばや」の創業者・故佐野実氏の哲学に触れ、独立後は湯河原の片隅で「究極の1杯」を求めて徹夜で試作を繰り返しました。
自著や特集インタビューの現場で飯田氏は、「生産者が丹精込めて作った最高峰の小麦や地鶏を安く買い叩く商慣習を是正し、ラーメンの地位を本物の日本料理にまで引き上げなければ、この産業自体の未来がない」と強い眼差しで語っています。
飯田商店の原価率は業界平均(約30%)を遥かに凌ぎ、45%〜50%に達すると試算されています。高級銘柄豚「TOKYO X」や希少な純粋黒豚、国産の無農薬小麦を惜しみなく配分し、化学調味料に頼らない無化調製法を徹底。さらに、早朝から深夜に及ぶ過度な長時間労働を排除し、スタッフに十分な休養と高水準の待遇を与えるための経営判断として、この価格設定は打ち出されました。
消費者は単なる「炭水化物とスープ」に対して代金を支払っているのではなく、最高級の食材、洗練された調理音、割烹のように磨き抜かれたカウンター席の凛とした空気感、そして飯田将太という料理人が生涯を賭けて築いた「食のドラマ」に対して対価を投じているのです。