「死の病」は一体どこからやってきたのか。この問いは数百年にわたり、歴史学者と科学者の間で激しい議論を巻き起こしてきた。中国起源説、インド起源説、あるいは黒海沿岸のクリミア半島自生説など諸説が乱立していたが、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所を中心とする国際研究チームが決定的な証拠を突き止めた。
研究チームは、現在のキルギス共和国に位置するイシク・クル湖周辺の14世紀の墓地から出土した人骨を精査した。墓石には「未知の疫病によって命を落とした」というシリア語の碑文が刻まれていた。歯の歯髄から古代DNAを抽出し、塩基配列を徹底解析した結果、そこから検出された菌のゲノムこそが、のちにヨーロッパ全土を破滅へ追い込む変異株の「直接の祖先」であることが実証されたのだ。天山山脈の麓に生息する野生のマーモットなどのげっ歯類コミュニティに潜んでいた病原体が、交易ルートの活発化に伴って人間社会へと流出した。長らく封印されていたパンデミックの出発点は、中央アジアの内陸部であったことが科学の力で完全に特定された。