文学の手法という観点においても、太宰と三島は対蹠的な頂点を築きました。太宰治の武器は、読者に直接語りかけるような親密な口語体(告白体)と、絶妙なユーモア、弱者の心に寄り添う圧倒的な共感力です。太宰のテキストは時代を超えて、生きづらさを抱える孤独な読者の心を鷲掴みにし続けています。
一方の三島由紀夫は、森鴎外の流れを汲む冷徹で構築的な漢語混じりの雅文体を極限まで磨き上げました。緻密なプロット、完璧なレトリック、知的な象徴性に満ちた三島の作品群は、西洋の古典悲劇にも匹敵する完成度を誇り、世界文学としての普遍性を獲得しています。
「読者に寄り添う弱さの告白」としての太宰文学と、「読者を圧倒する完璧な美の構築」を目指した三島文学。どちらが優れているかという二元論ではなく、人間精神の両極端を体現した二人の巨星が存在したことこそが、日本近現代文学の豊かさの証明と言えます。