牧場や研究現場で働く従事者が口を揃えて「全くの別物」と証言するのが、ヤギと羊の性格の違いです。この差は、野生時代の生息環境の違いが色濃く影響しています。
野生の羊は、見通しの良い草原地帯で外敵から身を守るために「徹底した集団行動(群盲行動)」を進化させました。羊の群れには極めて強い同調圧力があり、常に仲間と肩を寄せ合い、群れのリーダーや牧羊犬の動きに盲従します。羊飼いが先頭を歩けば、何十頭もの羊が一糸乱れず後を追います。逆に、1頭だけ群れから孤立させられるとパニック状態に陥り、ストレスで体調を崩すほど群れへの依存度が高い動物です。
一方、野生のヤギ(ベゾアールなど)は、捕食者が追ってこられない険しい山岳地帯や断崖絶壁を生活拠点にしてきました。そのためヤギは「高い場所を恐れない驚異的な登攀能力」と「強い好奇心・自立心」を備えています。牧場の柵を飛び越えたり、遊具の頂上に登ったりするのはヤギ特有の行動です。仲間と行動を共にしつつも個体ごとの意志が強く、集団でひとまとまりになることはありません。知能も高く、人間の行動を観察してケージの鍵を自分で外してしまう事例が報告されるほどです。
また、ヤギと羊の鳴き声比較においても明確な差異が存在します。ヤギの鳴き声はやや甲高く、喉を小刻みに震わせるような「メェ〜〜〜ッ」というビブラート混じりの発声が目立ちます。対照的に、羊の鳴き声は胸腔に低く響くような太い声で、「ボォ〜」「メェー」と野太く短く鳴く個体が多く見られます。
さらに管理上で極めて重要なのがヤギと羊の食性の違いです。どちらも草食動物ですが、専門用語では以下のように大別されます。
- ヤギ(ブラウザー/選択採食者):低木の小枝、樹皮、木の葉、高山性の低木などを好む。背伸びをして高い場所の枝葉を食べ、硬い繊維質の植物も器用に消化する。
- ヒツジ(グレイザー/草本採食者):地面に生えている柔らかいイネ科の牧草などを好む。頭を下げて地表近くの草を根元から食み取る。
昨今のソーラーパネル発電所や耕作放棄地における「エコ除草」の実証実験でも、背の高い雑木やクズのツルが繁茂している場所にはヤギが適し、芝生のように均一に生えた平地の草地管理には羊が適しているというデータが蓄積されています。