地域間コミュニケーションにおいてしばしば議論を呼ぶのが、「おじゃみとお手玉の違い」です。民俗資料や方言分布の調査を紐解くと、物自体はいずれも布袋の中に穀物などを詰めた伝統遊具であり、本質的な差異はありません。標準語として定着している「お手玉」が全国区であるのに対し、「おじゃみ」は近畿・中国・四国・九州北部にまたがる広大な西日本文化圏で愛用されてきた方言呼称です。
では、なぜ「おじゃみ」と呼ばれるようになったのでしょうか。語源に関する学術的な定説は主に2つ存在します。ひとつは、平安時代から室町時代にかけて御所に仕える女官たちが使っていた女房言葉に由来する説です。雑多な余り布や端切れを縫い合わせて作ったことから「お雑(おじゃ)」と呼ばれ、それが親しみを込めた接尾辞と結びついて「おじゃみ」へと転じたという記録が複数の国語辞典や風俗誌に残されています。
もうひとつは、江戸時代に上方の町家で親しまれた絹織物「縮緬(ちりめん)」の別称である「じゃみ」に美化語の「お」が付いたとする説です。当時、高価だった絹織物の裁ち落とし(端切れ)は庶民にとって貴重な資源であり、母親たちが子どもの知育遊具として仕立て直した歴史があります。東京を中心とする東日本では「手の中で玉を弄ぶ動作」をそのまま捉えて「お手玉」と呼んだのに対し、上方を中心とする西日本では「素材への愛着や仕立ての背景」に目を向けて「おじゃみ」と呼んだ点に、両地域の文化的感性の違いが浮き彫りになっています。