家庭でナスの天ぷらを揚げる際、最大の失敗要因となるのが「油の過剰吸収」です。調理直後は一見サクッとして見えても、皿に盛って数分後には底面が油まみれになり、噛んだ瞬間に油の重たさが口いっぱいに広がる現象はなぜ起きるのでしょうか。その答えは、ナスの内部組織の特異性にあります。
植物生理学および調理科学の知見によれば、ナスの果肉は約93〜94%が水分で構成されており、残りの固形分組織は無数の気泡を抱えた「海綿状(スポンジ状)組織」を形成しています。ナスを油に投入すると、内部の水分が急激に熱せられて水蒸気爆発を起こしながら外部へと蒸発します。このとき、水蒸気が抜けて陰圧となった空隙へ、周囲の高温の油が一気に引き込まれる「置換現象」が発生します。
文部科学省の『日本食品標準成分表』などの分析データを参照すると、一般的な野菜の天ぷら(カボチャやサツマイモなど)の吸油率が約7〜10%程度であるのに対し、ナスの天ぷらは条件次第で14〜18%以上に跳ね上がることが確認されています。つまり、油の温度が低すぎたり、揚げ時間が長引いたりすると、ナスは揚げ油を自ら吸い込むポンプのような働きをしてしまうのです。
また、ナス自身に含まれる水分が衣の内側に閉じ込められ、外側へ抜けきれずに衣を内側から蒸らしてしまうことも、あの不快なベチャつきを生み出す元凶です。油っぽさを防いで軽快な歯ざわりを叶えるには、スポンジ組織へ油を侵入させない「急速な表面凝固」と「無駄な水分の排除」が絶対条件となります。