桐麺の創業者である桐谷尚幸氏は、大阪屈指の超有名店「ラーメン人生JET」で長年店長を務め、確かな技術と求心力を培った後に独立を果たした関西ラーメン界の重鎮です。2014年に神崎川へ「中華そば桐麺」を立ち上げると、小麦の香りが鮮烈に際立つ自家製麺と濃厚な鶏白湯スープが瞬く間に評判を呼び、瞬く間に連日大行列のランドマークとなりました。その後、十三エリアに展開した「桐麺 はなれ」「中華そば きり麺」を含め、そのブランド力は盤石そのものでした。
順風満帆に見えた2023年春、桐谷氏は大阪市内の既存店舗を弟子のスタッフ陣へと託し、自身は兵庫県加西市でゼロから新たな店舗を立ち上げる決断を下します。ネット上では一時「体調不良説」や「家賃高騰による撤退」といった憶測も飛び交いましたが、真相は「麺職人としての究極の理想郷づくり」にありました。
桐谷氏がインタビューや公式発信で明かしたところによると、都市部のテナントビルの制約(限られた製麺スペース、排水・粉の保管環境、近隣への行列配慮)から解き放たれ、広大な敷地で大型製麺機を駆使し、理想の水と空気の中で小麦と向き合いたいという強い職人魂が移転の引き金となりました。自らが生まれ育った兵庫の風土に根ざし、粉のブレンドから熟成温度の管理までを極限までコントロールできる拠点を築くための、極めて戦略的かつ純粋な挑戦だったのです。