単なるインテリアの域を越え、医療・福祉現場やメンタルヘルス領域で導入が進んでいる背景には、人間の触覚刺激がもたらす生理学的な変化が深く関係しています。
日本国内の介護老人保健施設で働くケアマネジャーは、取材に対して次のように現場の様子を語っています。「認知症の進行により夕暮れ時に強い不安や徘徊症状(夕暮れ症候群)を見せていた入所者様が、膝の上にリアルな猫ぬいぐるみを乗せて撫で始めたところ、わずか数分で呼吸が整い、自発的に話しかける姿が見られました。本物の動物を施設で飼育するのはアレルギーや衛生管理、噛みつき事故のリスクから極めて困難ですが、高品質な疑似ペットはその代替として十分以上の情緒安定効果を発揮しています」。
また、猫ぬいぐるみペットロスケアとしての役割はさらに切実です。愛猫を18歳で看取った都内在住の50代女性の手記には、痛切な苦悩と救いが綴られています。「亡くしてからの半年間、腕の中にあった重みと温もりが失われた空白に耐えられず、夜も眠れなくなりました。娘がプレゼントしてくれた作家物の等身大ぬいぐるみを抱きしめた瞬間、崩れ落ちるように泣きました。本物の代わりにはならないと分かっていても、『撫でる対象がある』という事実だけで、引き裂かれそうだった心の穴が少しずつ塞がっていったのです」。
精神医学や触覚心理学の研究においても、一定の重み(約2〜3kg以上)を持つ対象を抱きしめることで副交感神経が優位になり、「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンの血中濃度が上昇することが実証されています。猫ぬいぐるみ高齢者癒やしの取り組みは、孤立感の緩和と非薬物療法の両面から確かな成果を上げています。